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  • LTV算出の実際

    Lifetime Value (LTV)はしばしばCustomer Lifetime Value (生涯顧客価値)とも言われるが、その期間は生涯(lifetime)の長さを言っているのかというと現実はそうでもない。では、どれくらいの長さなのかと疑問が湧いてくるが、それにはLTVを算出する目的を理解する必要がある。

    marginal CAC, Marginal ROAS, LTV, CLV framework

    イメージでいうと上図、上段に売上、下段にコストを示した。上段は初回購入金額(1st), 二回目購入金額(2nd),..それぞれの利益(profit/Loss)部分の合算の期待値 (expected)がLTVとなる。何故ここで、期待値という言葉を使うかというと、初回購入を起点とすると初回購入金額はそのままでいが、二回目以降の購入それぞれ実現するかどうか(継続するかどうか)わからないため数学的に言うと金額 x 確率で期待値をとる (高校一年の数学)。その確率はここでは継続率ということになる。一方下の段に示したのが費用面、すなわちCustomer Acquistion Cost (CAC) あるいはCost per Acquisition (CPA)つまり顧客獲得コストであり、これをPayback Period (投資回収期間)の売上のProfit とLossの合計値で回収しましょうという発想。

    話を元に戻すとLTVを算出する目的は「顧客を獲得するのに費用(広告費)をいくらまで使っていいか?」というお題に答えるため。上図でいうと投資回収期間内の初回+二回目+三回目。。。のProfit あるいはLoss期待値の合計まで「広告費をつかっていいよ」(いわゆる限界ROAS, 限界CPA, 限界CACなどと呼ばれる)。ようは「限界。。」=「ぎりぎりまで」というニュアンス。実質的には会社の財務部門と投資回収期間を含めて「握る(or 合意する)」わけで管理会計の世界になる。

    ただし、生涯 (lifetime)という尺はやたらに長いため、実務上は一定の尺で切って運用する。会社によって異なるものの小職の経験では尺の長さは1年であったり5年であったりその商材やサービスの性質あるいは会社の方針によりまちまち。また、たいていの場合はその限界ROASの値を「今」知りたいので将来の着地を「推定」という処理がはいってくる。仮に1年という尺であったとしても、購入(事業開始)からまだ1年たってない時点でその値を推定するため「アタリ」で仮に6ヶ月分実測値があれば6ヶ月を1年に一定の係数で引き延ばして代用する。然るべき時期がきたら(さらに半年経ったら)より正しい値で上書きする手順になる(管理会計の世界では差異分析と呼ばれる)。


    また、この方式を採用するにはもともとの事業が直販 (Direct-To-Consumer)なり通販をしている実態がたぶん前提となる。直接顧客に請求書を発行している状態があって初めて[顧客数]あるいは[注文件数]を数えることができる。つまり[顧客数]をデータベース上でカウントできる環境にあること、同一[顧客]の買い物履歴が実際に見れる環境にあれば自ずと獲得した[顧客]が回収期間に払ってくれるであろう売上から損益計算をしようという発想にもなるだろう。ここでAmazon Marketing Cloud (AMC)が素晴らしい点はいわゆるクリーンルームという思想でベンダー(メーカー)視点で言うならエンドユーザーに直接請求書を出さないものの[顧客数]がカウントできこれらの必要な指標計算が可能であること、これはクリーンルーム以前には考えられなかったことであり劇的な飛躍である。

    以下はいくつか運用上の注意点

    • 上図の購入金額はAMC上では販売金額であるがベンダー(メーカー)視点でいえば、メーカーからアマゾンへ渡した価格に置き換える処理が必要になる。
    • 上図の初回購入はSQL上ではCTEをつかって同一 userがこの購入より以前(過去一年間など)に買った経験がないというフィルター条件を加える必要がある。
    • どんな塊で評価するのか、例えばブランドという塊で切り出すならば同様にSQLのCTEを使って同一ブランドという塊を切り出す、場合によっては、キャンペーンという単位でくくって評価するなど、どんな塊で評価するのかという枠組みを設計する必要がある。
    • 限界ROASといっても実際は「足切り」あるいは「下限」のラインを設定するだけなので、このバーを上げるも下げるも匙加減一つ。マーケターならばなるべく低い基準を設定してより多くの新規顧客を取り込むことを指向するべきである。(ここらへんで財務部門との綱引きが始まる。)

    さらに現実的な話をするなら実際多くのFMCG 消費財の会社の場合、マルチチャネルで販売している場合がほとんであり、LTVベースの投資評価に慣れていることは限りなく皆無。しかも歴史的には後発のオンラインチャネルありきで広告費を算出することはまずあり得ない。アマゾン(楽天しかり)の場合は元々オフライン(間接販売)の商流があって後発で販売チャネルを追加拡大している経緯から、広告費の割り振り基準も既存チャネルに「右へ倣え」「平等に」LTVというよりは昔ながらの売上のXX%でという風なルールでチャネル横断で運用せざるを得ないだろう。

    したがってEC部門で実際にできることは、財務部門とはこのような従来の方式で広告予算がきまり、その範囲内でやりくりを限界ROAS・CAC・CPAの匙加減を部門内で調整する程度だろう。より新規顧客を増やして長期的な成長を思考するか、あるいはたった今の売上を最大化するか、両極端を見据えながらの運用になる。

    以上のようにAMCを活用してLTVベースのCAC算出は理論上は当然可能であるも、もともとの会社生い立ちが通販やピュアオンラインでない限り、あるいは会社として軸足をオンラインチャネルへ全面的に移して取り組もうという姿勢がないかぎり、財務部門と突然この話を始めても話が噛み合わないことがほとんどなので要注意である。

    一番効果的な使い方としてはEC部門からこの話を切り出すというよりもとりあえず普段は「受け身」の状態にしておく。仮に期中に財務部門から「広告予算カット」あるいは「広告予算追加」と言った打診をされた時こそこのフレームワークが功を奏する。「広告費があと1千万削れる?」あるいは「広告費をあと1千万増額すると売り上げも積み上がる?」という具合に聞かれた時、変動後の売り上げシミュレーションを一緒に提示すると納得感がでる。

    Sunset, Tamagawadai Park
    Sunset, tamagawa dai park 多摩川台公園